ヨーロッパの三大カーニバルといえば、ヴェネチア(イタリア)・ニース(フランス)、そしてヴィアレッジョ(イタリア)のカーニバルだ。
日本ではあまり知られていないこのイタリアのトスカーナ州にあるヴィアレッジョという街だが、毎年2月のカーニバルの時期には世界各国から60〜100万人の見物客が訪れる。
この記事では、2020年のヴィアレッジョのカーニバルの潜入レポートと共にカーニバルの楽しみ方を解説する。
ヴィアレッジョの街の紹介はこちら↓

ヴィアレッジョ(Viareggio)のカーニバルの特徴と楽しみ方
ヴェネチアのカーニバルは豪華絢爛でクラシックな仮面舞踏会のイメージだが、ヴィアレッジョのカーニバルは高さ20〜30mの「Carro(カッロ)」と呼ばれる巨大な山車(だし)のパレードが圧巻なのだ。
巨大な山車のハリボテが動きながらパレードをする様子は、見ているだけでもその規模の大きさに圧倒されるが、事前に少し知識をつけておくとより楽しめる。
ポイント1:ただのパレードではなく、山車のコンテスト
巨大な山車たちは、イタリア各地のチームが1年かけて作り上げる作品だ。
約1ヶ月続くカーニバルの最終日にその年の最優秀の山車が発表される。
観客も投票に参加することができる。
ポイント2:山車のカテゴリーは4つに分けられる
山車の中には20mを超える巨大なものもあればこじんまりとした物もあり、実は全部で4つのカテゴリーに分かれている。
その4カテゴリーは以下の通り。
-
- 第1カテゴリー
- 第2カテゴリー
- 仮面パレードグループ
- 個人の仮面パレード
2020年の今年は第1カテゴリーにエントリーした山車は9台、第2カテゴリーは5台、仮面パレードグループは9つ、個人の仮面パレードが5つ。全28グループだった。
ポイント3:山車の評価基準
カーニバルの最終日には参加者の投票により、それぞれのカテゴリーからその年の優勝グループ(山車)が決まる。
その評価は、山車自体のクオリティはもちろん、山車の前をパレードする仮面舞踏グループのダンスや音楽、そしてそのテーマやストーリーなどから総合的に判断される。
巨大な山車は伝統的な紙作りの鋳型で作られることが条件だが、中にはプラスチックを用いた山車も有り、そういった物はいくら壮大な規模だったとしても評価が低くなるそうだ。
また、第2カテゴリーの優勝山車は、翌年には第1カテゴリーに格上げとなる。
ポイント4:山車のテーマ
ヴィアレッジョの山車は、政治問題・社会風刺・現代が抱える様々問題をテーマに扱う物が多いことでも知られている。
2011年以降の最初のカーニバルでは、日本の津波の恐ろしさを物語る山車も見られたらしい。
山車のテーマの構想は約1年前から練られ、カーニバルの約半年前に企画書として提出される。構想期間を含めると丸1年がかりだ。
パレードがその年の社会問題提起の場となっている点を押さえて見学すると面白いかもしれない。
という訳で、開催間も無い2020年2月9日(土)、私達も早速見に行ってみた。
2020年のカッロ(山車)のテーマとストーリーの解説
それでは、私が見て来た山車とそれぞれが何を表現・風刺していたのかを紹介しよう。
第1カテゴリー
1. 「疑惑の国のアリス」
こちらは不思議の国のアリスをモチーフにした山車。
SNS(ソーシャルメディア)における投稿の真の姿への疑問がテーマだ。
SNSで「いいね!」を集めている投稿は必ずしも美しく素晴らしいものかと言えば、そうではない。その実は、その投稿者の社会的地位だったり友人関係からくる、人々の「エゴ」に担ぎ上げられたものに過ぎない。
いいねやフォロワーの数に惑わされがちなSNSの闇へ切り込んでいる。
↑この動く巨大な山車が裏返った側をよく見ると、それぞれの箱にAndroidやiphoneなどのアイコンのようなものが描かれているのが分かる。
2. 中国の「大躍進」
蓮の花から飛び出した巨大なロボットの虎。お腹には「中国」の文字。
虎の足元には錆びて朽ち果てたミッキーらしき物が見える。
この蓮の花はファーウェイのアイコンであり、今や「最先進国」の一つとなり、アメリカにも影響を及ぼさんとする中国の勢いを表している。
グローバル化が進む一方、社会的不平等や貧困問題が置き去りにされている様子を風刺した山車のようだ。
3. 「アダムでもイブでもない」
この白鳥の2羽の白鳥は自由な愛を表し、また、下の神殿は純粋さと愛の象徴である。
この神殿の上でダイナミックにワルツを踊る白鳥達は、性別や人種、社会的ステータスや宗教などを抜きにした愛、障害の無い自由な恋愛を楽しむ姿を表現している。
この山車はホモフォビア(同性愛嫌悪)に対する警鐘である。
4. アイドルという偶像
クリスティアーノ・ロナウドのように見えるこの張り型は現代における「偶像崇拝」を表現している。
人々は自分達に影響を与えてくれるインフルエンサーを求めている。
クールでカッコ良くて巨大な影響力を持つインフルエンサーは、人々が作り出すフランケンシュタイン。
彼らはそんな群衆の奴隷で有り、群衆もまた奴隷。
インフルエンサーを崇める現代の風潮を揶揄していると思われる。
この山車はとにかく巨大で迫力があった。また、重低音を効かせた音楽もかなりクールで、観客も盛り上がっていた。
個人的には進撃の巨人を彷彿とし、かなり印象的であった。
5. 「カーニバル王の抱擁」
この山車のテーマはやや難しく、もしかしたら私の解釈は誤っているかもしれない。
片翼の天使達が抱擁する様子、また、中央の巨大な顔はカーニバル王プロセニアム。群衆を抱擁しようとしている。
また、上の五体の人形達はそれぞれ宇宙、音楽、愛、芸術、文学という普遍的な知識の鎖を纏っている。
「私達は片翼の天使である。しかし、抱き合えば飛ぶことができる」というメッセージ。
この山車が表現しているのは利他主義への賛美であると思われる。
6. 「ホーム・スイート・ホーム」
オズの魔法使いをモチーフにしたこの山車の中心は、ドロシーに扮したグレタ・トゥンベルグさん。
私達のスイートホーム、地球はもう後戻りできない所まで来ている。
その地球を救う唯一の方法は、頭を使い、勇気と心に従うこと…かつてオズの魔法使いのカカシやライオン、ブリキの人形がそうしたように。
言わずもがな、温暖化で異常気象が深刻化する環境問題への警鐘である。
このグレタさんの顔が一目で分かるくらい忠実に作られていて、この山車もとても印象的だった。
第2カテゴリー
第2カテゴリーは第1カテゴリーと比較するとこじんまりとした山車が多かったが、中には第1カテゴリーではないかと勘違いしてしまいそうな大規模な山車もあった。
しかし山車の前を踊りながら進むダンサー達のパフォーマンスが楽しく、どの山車も第1カテゴリーに引けを取らず観客を楽しませてくれた。
↑「子供達から手を離せ」
親による児童虐待に警鐘を鳴らす山車。
↑雄大でエレガントの虎は動物界の中でも崇拝される存在。しかしそんな虎も人間の手によって絶滅の危機に瀕している。
この虎の家族は、人間が生物多様性が実現された未来のために動き出すことを訴えている。
この虎の山車も雄大で、第1カテゴリーに入っていてもおかしくないクオリティであった。
仮面パレードグループ
社会的・環境的に困難な状況に追いやられた人々は、より安全で美しく、自由な場所を求めて移動しようとする。しかし、サメに乗った大国の指導者達がこの希望の旅を妨げる。
以上、個人的に印象に残った山車を紹介したが、全ての山車のテーマ・ストーリーが知りたい方はこちらのページ(イタリア語)から確認できる。
また、こちら↓のCARNIVALANDというサイト(英語)では、ヴィアレッジョ・カーニバルの山車(英語ではfloat)について詳細に説明しているので、興味のある方は覗いてみると良いかもしれない。
https://www.carnivaland.net/viareggio-floats/
見物客の仮装を眺めるのも楽しみの一つ
アメリカや日本のハロウィンでは若者達の仮装で大盛り上がりだが、イタリアのカーニバルでは子供や若者のみならず、パパやママ、おじいちゃんおばあちゃんまで、一族総出で仮装をする。
カーニバルに向かう前にレストランに入ると、各テーブルでは仮装したファミリー達が食事を取っており、まるで学芸会の控室にいるような気分だった!
あるテーブルは一家全員海賊。船長はパパ。子供は子分。
あるテーブルはピーターパン。何故かママ達がピーターパンで、子供達はネバーランドの島の子供達役。生後間もないと思われるベビーも妖精に扮装させられていた笑
レストランを出て徒歩で海岸通りへ向かっていると、ここでもまた仮装した人々がゾロゾロと歩いている。
↑娘はプリンセス?で、パパはトラ。
↑イタリア人の女の子が妖精やプリンセスの格好で歩いているのは反則的に可愛い!
ヴィアレッジョのカーニバルへの行き方
ヴィアレッジョへのアクセス
カーニバルの日は駐車場を見つけるのが至難の技だ。
特にパレードが行われる海沿いの遊歩道付近に駐車場に停めることなどは期待しない方が良い。
地元民はかなり早めに行き、街中の出来るだけ近場の通りにスペースを見つけて車を停める。
私達はパレード開始の1時間半前に到着したが、既にどの通りも車でビッシリと埋め尽くされており、パレードが開催される海岸通りまで随分歩くことになってしまった。
フィレンツェやピサなどから訪れる場合は、電車が便利だ。
フィレンツェからは電車で1時間半〜2時間ほど、ピサからであれば約20分で行けてしまう。
ヴィアレッジョの駅から海岸通りまでは徒歩10分程度だ。
カーニバルの夜には花火大会が開催される日もあるので、夜までゆっくり楽しみたい場合は、ヴィアレッジョに1泊するのがオススメだ。
入場チケットの値段と購入方法
山車のパレードのエリアに入るには入場券を買わなくてはならない。
↑パレードの舞台となる海沿いの遊歩道、ラ・パッセジャータ(La Passeggiata)に着くと、パレード内のエリアに入るエントランスがある。
エントランスの手前にチケットの販売所があるので、そこで購入できる。
↑当日一日券は大人一人20€。
但し、身長120cm未満の子供は無料、120cm以上の子供は15€。
さらにベンチ席も有り、ゆっくりと座って高見の見物をしたい場合は入場券に加えて15€支払えば可能だ。
また、事前に公式サイトからオンラインで前売り券を購入すれば17€になる。→公式サイトはこちら
ヴィアレッジョ・カーニバルの開催期間
カーニバルの開催期間は、毎年4月のイースター(復活祭)を基準に決められる。
イースターの日以前の40日間は四旬節、すなわちキリスト教の禁欲期間であり、この四旬節禁が始まる前までの約一ヶ月がカーニバルの期間となる。
・2/1(土)16:00〜:オープニングセレモニー、第1回山車パレード、花火ショー
・2/9(日)15:00〜:第2回山車パレード
・2/15(土)17:00〜:第3回山車パレード
・2/20(木)18:00〜:第4回山車パレード、花火ショー
・2/23(日)15:00〜:第5回山車パレード
・2/25(火)15:00〜:第6回山車パレード(最終)、山車表彰セレモニー、花火ショー
今年2020年は2/25(火)がカーニバル最終日、グランドフィナーレとなる。
今年の最優秀賞を取る山車は、果たしてどれだろうか!?
私の予想では…「疑惑の国のアリス」!!(個人的に好きなテーマだったりするので…)
もしまだ予定が空いている人は足を運んでみてはいかがだろうか。
↓ブログ村ランキングに参加しています。ポチッと応援頂けると励みになりますm(__)m